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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)97号 判決 1979年6月29日

原告 神奈川県信用保証協会

被告 国

代理人 成田信子 白井文彦 奥原満雄 中村正俊 ほか二名

主文

横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第九九号不動産任意競売事件につき、同裁判所が作成した別紙第一配当表のうち順位「3―1」・「3―2」・「4」及び「5」の部分を別紙第二配当表記載のとおり変更し、これを実施する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告の求める裁判

主文同旨

二  被告らの求める裁判

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  債権者をキヤタピラー三菱株式会社、債務者を藤大産業株式会社、所有者を端山勝蔵・同端山利男とする別紙物件目録記載の各不動産に対する横浜地方裁判所昭和五〇年(ケ)第九九号不動産任意競売事件(以下、「本件競売事件」という。)につき、同裁判所は昭和五〇年七月一日、競売手続を開始し、端山勝蔵所有の右物件目録記載の1・2の土地を競売したことによつてえた売得金につき別紙第一配当表を作成し、昭和五三年一月一七日午前一〇時に配当期日を指定した。

(二)  しかしながら、右配当表には、次に述べるように順位「3―1」・「3―2」の部分につき、債権額および交付額を、「4」・「5」の部分につき、交付額をそれぞれ誤つた過誤があるので、これを別紙第二配当表記載のとおり変更すべきである。

(1) 藤沢信用金庫(以下、「藤沢信金」という。)は、藤大産業株式会社(以下、「藤大産業」という。)が信用金庫取引及び手形・小切手により藤沢信金に対し負担する債務を担保するため、昭和四七年六月三〇日端山勝蔵及び端山利男から同人ら所有にかかる別紙物件目録記載の各不動産につき極度額金二四〇〇万円の根抵当権(以下、「本件根抵当権」という。)の設定を受け、同年七月六日その旨の根抵当権設定登記手続を了した。

(2) 藤大産業はその後、左記のごとく藤沢信金から

(イ) 昭和四七年六月三〇日、金一五〇〇万円を、同年七月から昭和五〇年一〇月まで毎月末日に金三八万円ずつ(ただし、最終回は金一八万円)割賦返済すること、利息は年八・五パーセントとし、借入日に昭和四七年七月末日までの分を前払いし、同年七月から毎月末日限り翌一箇月分を前払いすること、期限後の損害金は年一八・二五パーセントとすること、債務の履行を怠つたときは期限の利益を失い、即時、残存債務金額を支払う等の約定で借り受け、

(ロ) 昭和四八年六月二五日、金七〇〇万円を、同年七月から昭和五三年六月まで毎月末日に金一一万円ずつ(ただし、最終回は金五一万円)割賦返済すること、利息は年七・七パーセントとし、借入日に昭和四八年七月末日までの分を前払いし、同年七月から毎月末日限り翌一箇月分を前払いすること、その余の約定は(イ)同様として借り受け、

(ハ) 昭和四八年六月二五日、さらに金三〇〇万円を、昭和四八年七月から昭和五三年六月まで毎月末日に金五万円ずつ割賦返済すること、利息は年七・七パーセントとし、借入日に昭和四八年七月末日までの分を前払いし、同年七月から毎月末日限り翌一箇月分を前払いすること、その余の約定は(イ)同様として借り受け、

(ニ) 昭和四九年八月九日、金一〇〇〇万円を、同年八月から昭和五二年四月まで毎月末日に金三〇万円ずつ(ただし、最終回は金四〇万円)割賦返済すること、利息は年一〇・七五パーセントとし、借入日に昭和四九年八月末日までの分を前払いし、同年八月より毎月末日限り翌一箇月分を前払いすること、その余の約定は(イ)同様として借り受けた。

(3) 原告は、藤大産業が藤沢信金から右の金員を借り受けるに際し、それぞれ右債務につき連帯して支払の責に任ずる旨の連帯保証をした。なお、原告のほかに(イ)については端山勝蔵・同利男・同一男の三名も、(ロ)、(ハ)、(ニ)については端山勝蔵・同利男の両名も連帯保証をした。

(4) 原告が右連帯保証をするにあたり、(イ)につき主債務者藤大産業、連帯保証人兼物上保証人端山勝蔵、同利男及び連帯保証人端山一男と、(ロ)、(ハ)、(ニ)につき主債務者藤大産業、連帯保証人兼物上保証人端山勝蔵、同利男との間で、信用保証委託契約を締結した。この契約においては、前記各債務に対する原告の代位弁済による求償関係につき原告には負担部分がなく、主債務者及び原告以外の連帯保証人・物上保証人は原告が代位弁済した金員の全額につき連帯して原告の求償に応じ、かつ代位弁済金に対し代位弁済の日の翌日から年一四・六パーセントの割合による損害金を付して支払う旨の特約がされた。

(5) 藤大産業は債務の履行を怠つて期限の利益を失い、原告は藤沢信金より代位弁済の請求を受け、昭和五〇年七月三日、藤沢信金に対し、前記(イ)の債務に対する残元金三九八万円及び利息金一一万一、二二一円、同(ロ)の債務に対する残元金五一三万円及び利息金一二万九、八六六円、同(ハ)の債務に対する残元金二一五万円及び利息金五万四、四二七円、同(ニ)の債務に対する残元金八八〇万円及び利息金三一万一、〇一三円、以上合計二、〇六六万六、五二七円を弁済した。

(6) 原告の右代位弁済により、すでに昭和五〇年三月三一日元本確定し、同年四月四日元本確定の登記を経由してあつた本件根抵当権は右代位弁済を原因として原告に移転し、同年七月五日、その旨の付記登記がされた。

(7) 昭和五二年七月七日、次の各配当があつた。

(イ) 前記(二)(5)の代位弁済による求償元金合計金二、〇六六万六、五二七円に対し、金四九四万六、四四六円。

(ロ) 右求償元金合計金に対する代位弁済の日の翌日の昭和五〇年七月四日から昭和五二年七月七日までの年一四・六パーセントの割合による損害金六〇六万七、六九一円に対し金八三万〇、四六四円。

そこで、原告が代位弁済により求償できる金額は(イ)の求償残元金一、五七二万〇、〇八一円及び(ロ)の遅延損害金の残金五二三万七、二二七円と求償残元金一、五七二万〇、〇八一円に対する昭和五二年七月八日から昭和五三年一月一七日までの年一四・六パーセントの割合による損害金一二一万九、八七八円を加えた金六四五万七、一〇五円となる。

ところで原告は、右求償債権につき、本項(イ)、(ロ)の如く一部配当を受けているので、原告が代位取得した本件根抵当権の確定債権金二、〇六六万六、五二七円は右配当額合計金五七七万六、九一〇円の範囲において縮少し、本件配当表作成当時には右配当額を控除した残額の金一、四八八万九、六一七円だけしか残存しなかつたことになる。そこで原告に対する配当表は、まず、配当表の基準となる債権額においては、損害金につき金六四五万七、一〇五円、元金につき金八四三万二、五一二円、次に、配当交付額においては、損害金につき右と同額、元金につき金二八〇万九、七九六円となり、これに伴つて被告らに対する配当交付額は零となる。

(三)  ところが横浜地方裁判所第三民事部は、本件競売事件につき民法五〇一条但書五号により頭割りをもつて原告に対する債権額及び競売売得金の交付額を算定し、損害金については年六分の割合であるとし、別紙第一配当表を作成した。

(四)  そこで、原告は、本件競売事件の配当期日において、別紙第一配当表につき異議を申立てたが、右異議は完結しなかつた。

(五)  よつて、原告は別紙第一配当表のうち順位「3―1」・「3―2」・「4」及び「5」の部分を別紙第二配当表記載のとおり変更して実施すべきことを求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

請求原因(一)の事実は認める。ただし、別紙物件目録記載4の物件は本件競売事件以外の物件である。同(二)の冒頭の事実は争う。同(二)の(1)(ただし、右(一)に同じ)及び(6)の各事実はいずれも認める。同(二)の(2)ないし(5)及び(7)の各事実は知らない。同(三)、(四)の各事実は認める。

三  被告らの主張

求償権及び代位に関する民法四四二条及び五〇一条但書五号の規定に反する特約については、同特約が公示されず、契約当事者以外の第三者はその内容を知りえず、利益を害されるおそれがあるから、第三者に対抗することができない。

第三証拠関係 <略>

理由

一  原告の請求原因(一)(ただし、別紙物件目録記載4の物件は除く。)同(二)の(1)(ただし、右(一)に同じ)、(6)及び同(三)、(四)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告の請求原因(二)の(2)の事実は<証拠略>により、同(二)の(3)の事実は<証拠略>により、同(二)の(4)の事実は<証拠略>により、同(二)の(5)の事実は<証拠略>によりいずれもこれを認めることができこれに反する証拠はない。

三  ところで、被告らは、原告の請求原因(二)の(4)主張の前示求償権及び損害金に関する各特約の存在を被告らに対抗できないと主張するので、この点について検討する。

民法五〇一条但書五号は、弁済による代位につき別段の定めがないとき保証人と物上保証人との負担部分が同一であるとした利益調整を目的とする規定であり、民法四四二条二項も求償権に対する利息や損害金につき当事者間に定めがないときの補充規定と解するのが相当である。そこで、本件のように右に関して特約がある以上、これに基づいて当事者の関係は処理されるべきである。

問題は、この特約を第三者にも対抗しうるかである。しかし、代位弁済者が自己の求償権の効力を確保するため代位取得した根抵当権を行使し優先弁済を主張できるのは、求償権の範囲内において債権者から代位取得した被担保債権についてであり、しかも右根抵当権の極度額の範囲に限られるのである。そして、これら根抵当権の存在については登記簿上公示される。そもそも、債権者に対して自己が優先弁済を主張できない者は、元来、債権者がその被担保債権の満足をはかるため目的不動産につき根抵当権を全部行使することを甘受すべき立場にあるのである。右の点から前示特約を肯定しても、第三者を害するものではない。

よつて被告らの主張は、理由がない。

四  以上によれば、原告の前示代位弁済により、前示特約に基づき原告には負担部分はなく、主債務者藤大産業・連帯保証人兼物上保証人端山勝蔵、同利男及び連帯保証人端山一男が連帯して代位弁済金の全額である金二、〇六六万六、五二七円及びこれに対する代位弁済の日の翌日から完済まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金につき原告の求償に応ずることになる(もつとも、端山一男は請求原因(二)の(2)(イ)についてだけの連帯保証人であるから求償に応ずる額は異なる)。

そして、右求償権の範囲内で原告は藤沢信金に代位し、藤沢信金が藤大産業に対して有していた貸付金債権二、〇六六万六、五二七円及びこれに対する右と同期間、年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金債権を取得し、且つ、これについての本件根抵当権(極度額金二、四〇〇万円。なお、元本は二、〇六六万六、五二七円で確定済)を取得したことになる。そして遅延損害金に関する年利につき、後者が前者を上廻るので、結局、後に述べる極度額を限度として求償権全額につき代位したことになる。

五  ところで、原告は、前示のとおり昭和五二年七月七日に一部配当を受けている。その時点までの求償権は、求償元金二、〇六六万六、五二七円及びこれに対する代位弁済の日の翌日たる昭和五〇年七月四日から昭和五二年七月七日まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金六〇六万七、六九一円であり、配当金は右求償元金につき金四九四万六、四四六円、遅延損害金につき金八三万〇、四六四円であるから、求償元金残は金一、五七二万〇、〇八一円、遅延損害金残は金五二三万七、二二七円となる。

そこで本件配当期日たる昭和五三年一月一七日における求償権は、右の求償元金残一、五七二万〇、〇八一円、遅延損害金残五二三万七、二二七円及び求償元金残一、五七二万〇〇八一円に対する昭和五二年七月八日から昭和五三年一月一七日までの年一四・六パーセントの割合による遅延損害金一二一万九、八七八円(故に遅延損害金の合計は六四五万七、一〇五円)を加えた合計金二、二一七万七、一八六円となる。

ところで、代位取得した本件根抵当権の極度額は前示のとおり金二、四〇〇万円であり、これを上限としてのみ優先弁済を受けられるわけである。

右の上限から、すでに配当として弁済を受けた金五七七万六、九一〇円(求償元金に対する配当金四九四万六、四四六円、遅延損害金に対する配当金八三万〇、四六四円)を控除すると、本件配当期日において優先弁済を受けられるのは金一、八二二万三、〇九〇円となる。

六  そこで配当表に記載する金額を算定するに、優先弁済を受ける順位は求償債権についてもその法定充当の規定によつてされることになるから、第一に、前記遅延損害金残につき全額の金六四五万七一〇五円、第二には求償債権残たる金一、五七二万〇、〇八一円の一部にあたる金一、一七六万五、九八五円となる。

右の債権額に対し配当される金員は、今回、本件競売手続による売得金が金九七五万円であり、この内から先順位者の配当金四八万三、〇九九円を差引いた金九二六万六、九〇一円がこれにあてられるのであるから、結局、右遅延損害金につき全額の金六四五万七、一〇五円、右求償債権残につきその一部たる金二八〇万九、七九六円となる。

なお、原告が配当表において主張する順位「3―2」の債権額は、右の計算による額の範囲内である。

以上によれば、本件第一配当表には原告主張の過誤があるものというべく、右配当表のうち順位「3―1」・「3―2」「4」及び「5」の部分を別紙第二配当表のとおり変更することを求める原告の請求は理由がある。

七  よつて、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条及び九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日高千之)

物件目録 <略>

第一配当表

競売売得金

順位

債権の種類

債権額

交付額

債権者の氏名

9,750,000

1

手続費用

175,147

175,147

キヤタピラー三菱株式会社

2―1

損害金

67,364

67,364

株式会社駿河銀行

2―2

貸金残

240,588

240,588

3―1

損害金残

10,660

10,660

神奈川県信用保証協会

3―2

求償債権残

1,601,461

1,601,461

4

申告所得

4,917,800

4,607,633

藤沢税務署長

5

市県民税等

3,533,710

3,047,147

藤沢市長

合計

9,750,000

第二配当表

競売売得金

順位

債権の種類

債権額

交付額

債権者の氏名

9,750,000

1

手続費用

175,147

175,147

キヤタピラー三菱株式会社

2―1

損害金

67,364

67,364

株式会社駿河銀行

2―2

貸金残

240,588

240,588

3―1

損害金残

6,457,105

6,457,105

神奈川県信用保証協会

3―2

求償債権残

8,432,512

2,809,796

4

申告所得

4,917,800

0

藤沢税務署長

5

市県民税等

3,533,710

0

藤沢市長

合計

9,750,000

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